Hello world!nora3です。
自宅隔離ではっきり言ってヒマなので、本日もブログ更新してみましょう。
前回は「新しい役をもらったら、まず何からやりますか?」ということで、台本を手に取ったところから、セリフを自分の言葉として覚えるところまでを説明しました。
本日は、いよいよ「役作り」といわれる領域に入っていきます。
俳優をやっていて、一番楽しい瞬間は?と聞かれたとすると、本番中はもう必死で楽しむというのとはちょっと違う感じだし、本番後はすごい開放感はあったりするんですけど、やっててやっぱり一番面白くて、一番やりがいや工夫のしがいを感じれて、なおかつその出来不出来によって結果が大きく左右されるのが、この「役作り」の段階ではないでしょうか。
ゲームで言えばまだゲームスタートする前で、自分のアバターにどんなスキンや武器やアイテムを装備したら良い結果につながるか、あれこれ試してみて、決めていく段階と言えます。
違う点は、ゲームキャラの場合、アイテムは「外側」に「装着」していき、外見や戦闘力を変えていくイメージですが、俳優の場合は基本的に、「自分に影響のあるアイテム」を探し、それを「内側」に「内包」していく感じです。
変化すればなんでもいいわけではなく「役」に近づかなければならないので、俳優はまず、「自分に確かに影響があり」「身体的に、または心理的に」「役のイメージに近づける」アイテムを見つける必要があります。
そうは言っても簡単には見つからないので、全ての俳優はここで試行錯誤することになるわけですが・・・それが楽しいんです。ここで「変身」するわけですから。仮面ライダーみたいに「ヘンシンッ!」と叫んで変身ポーズ一発で変身できれば楽なんですが、俳優はそうじゃないので、この試行錯誤期間が俳優にとっての「変身の儀式」ということになります。
とりあえず、簡単に儀式の流れを書いてみましょう。
①役のイメージをはっきりさせる
②イメージに合ったアイテムを探す
③アイテムを実装し慣らし運転する
④徐々にアイテムを内包し「へそ」化する
⑤役によく似た自分で暮らす
上記は、「役を大づかみにする」までの手順です。
この後に、⑥必要なトッピングやアーティストタッチ的な細部を造形して、とりあえず「役の完成」となりますが、俳優が個人で取り組むのは⑤までにしておいた方が良いと思います。⑥については稽古や撮影前の打ち合わせ等で演出家や監督と相談しながら決めていく場合が多いので、あえて余白として残しておきます。
え?なんのこと?とか、それってどうやるの?という人も多いと思うので、一つずつ説明していきたいと思います。
①役のイメージをはっきりさせる(キーワードを決める)
前回、セリフを覚える前に「役の個人情報」を書き出し、セリフを覚えながら「穴埋め」して、自分の言葉にしていく作業について説明しましたが、その時あえて扱うのを避けていた「役の内面や個性に直接影響を与えていると推察できる事柄」にここでは注目します。台本の中から、自分の役の「性格」や「欲望」や「夢」や「身体的特徴」や「心の傷」といった、そのキャラクターの核心に近いと思われる部分を抜き出します。また、「穴埋め」作業をする中でわかってくる、キャラクターの「思考のクセ」や「スピード感」「頭脳タイプorフィジカルタイプ」「自分本位or調和重視」など、役の造形に影響を与えそうな事柄も合わせて書き出します。
役の大きさにもよりますが、10や20は出ると思いますので、次にそれらの「役の要素」を絞り込んでいきます。
「役の要素」は多ければいいというものではありません。僕の実感としては「役を大づかみにする」ために俳優が実際的に取り組めるのは、1つか2つ、多くても3つが限界でしょう。それらを自分の内部に作り出して「常在」させる必要があるので、余白や余裕を持つためにも少ない方が良いです。
10〜20の要素を鍋で煮込んで「結晶化」するようなつもりで、「密度濃く」「数少なく」なるように絞り込んでいき、最終的には「2つの相反する言葉」で表せる程度まで「純化」します。具体的には「真っ直ぐ⇄折れる」とか「透明⇄汚れやすい」「小さい⇄高熱」「きらびやか⇄暗黒」「優しい⇄憎悪」などのように、そのキャラクターの表と裏の二面性を表すような2つのキーワードをとりあえず決めます。この時に「明るい⇄優しい」とか「凶暴⇄怖い」とか方向性が似た言葉を選ぶとキャラクターが「薄く」なり魅力的になりにくいです。役に深みを与えるために相反するイメージの言葉を選ぶようにしましょう。
また選ぶ言葉も、自分に作用影響しやすいものを選んだほうが良いです。僕の場合なら「明るい」という言葉よりは「輝き」とか「発光」とかいう言葉の方が感じるものがありますし、この後ここで決めたキーワードを元にアイテムを作っていくので、自分が影響されやすい言葉を選ぶようにしましょう。
といってもわかりにくいと思うので、例として実際に一つキャラクターを取り上げてキーワードを決めてみたいと思いますが。
今日本で一番有名なキャラクターといえば・・・なんだろ?
竈門炭治郎?でいってみますか。
まずは炭治郎に関する「役の要素」を挙げれるだけ挙げます。「優しい」「真面目」「明るい」といった性格的要素から、「呼吸の使い手」「嗅覚が発達」「全集中常中」等の身体的要素、「家族を殺された」「鬼を倒す」「禰豆子を人に戻す」といった精神的要素や目標まで、たくさん出ると思います。
次に、挙がった要素を煮詰めて結晶化させていきます。炭治郎を端的に表すような、相反する2つの言葉になるまで、要素を絞り込んでいきます。
要素群を並べて見渡すと、「いい人/前向き」「暗いトラウマ/目的」「技術的/神秘的奥義」といった3つくらいの集団に分けることができそうですよね。なので、この3つを端的に表すようなキーワードを探していきます。
そうですねえ・・・ここではとりあえ「いい人/前向き」の部分に「輝き」、「暗いトラウマ/目的」「技術的/神秘的奥義」の部分に「嵐」というキーワードを設定してみましょう。
「輝き⇄嵐」というのが、炭治郎という役を端的に表すキーワードということになります。
このキーワードを使って次のアイテム探しに取り組みますが、うまくいかなければ、戻ってキーワード決めからやり直しても全然OKなので、まずは気楽に取り組んでみましょう。
②イメージに合ったアイテムを探す
次にキーワードに合ったアイテムを探していきます。
「アイテム」というのは、ゲームのアバターにとってのスキンのようなもので、俳優が「役を大づかみにする」ために実装する「イメージ」のことです。
最適なアイテムを実装することで、例えば「立ち姿」「歩き方」「表情」「反応スピード」「声のトーン」「クセ」など、観る人の印象を左右する部分がガラッと変わります。もちろんそういった外に現れる部分が変われば、俳優本人もその変化に自ら影響を受け、内面も変化していきます。俳優がやっているのは、ただ選択したアイテムを実装し、その状態を維持することだけなんですが、その印象は大きく変わり、まるで別人が現れたかのように感じられます。
アイテムとして実装する「イメージ」については、以前の記事でも少し触れていますので参考にしてください。アイテムを探し、決定し、実装するには、常日頃からの「イメージ力」がものを言います。豊かなイメージが溢れるように出るか否かが成否の鍵を握りますので、普段から楽しみながら「イメージで遊ぶ」習慣を付けておきましょう。
では、実際にアイテムを探してみましょう。
ここから先は試行錯誤の連続ですので、リラックスして楽しみながら気長に取り組むようにします。
先ほどの炭治郎の例の場合、「輝き⇄嵐」というのが役のキーワードでした。
キーワードのままでは俳優の心身に影響しにくいので、これを具体的な「イメージ」に変換していきます。「言葉」を「映像」や「物質」や「感覚」などに変換するということです。
「輝き」を具体的にイメージすると、例えば「太陽」「電球」「サーチライト」「宝石」「ガラス」等、いろいろ出てくると思います。
「嵐」については「台風」「大雨」「暴風の音」「雷」「割れる窓ガラス」「肌を叩く風雨」等、これまたいろいろイメージできるかと思います。
前項でも書きましたが、実際に使用するアイテム数は少ない方がいいんです。基本的には1つで、あとはシーンや役の成長によって、もう1つ加えるか、最初の1つを「変化変質」させるか、といった感じでやるのがいいと思います。
なので、この炭治郎の場合でも、いろいろなイメージが出るかと思いますが、その中で一番狙いに近い効果が期待できそうで、演じる自分自身に影響が大きそうなものを選びます。
例えば「輝き」のイメージとして、陽の光を反射してきらきらと輝く海や湖の「水面」を選びます。次に「嵐」のイメージとして、台風のような、風雨の混じった激しい「竜巻」を選ぶとします。
そして、この辺が創意工夫、試行錯誤のしどころですが、相反する二つのイメージといっても、一人の人格の中の両面なので、なんとかこの二つのイメージを結びつけるようなアイテムを創出します。
今の場合で言えば、静かな輝く水面が、徐々に騒ぎ始め、波立ち、水飛沫を上げて段々と渦巻き始め、やがて激しい風と共に成長し、竜巻となって水面から立ち上がったかと思うと、なにもかも薙ぎ倒し巻き込んで、巨大な嵐と化す、というようなイメージをアイテムとして準備します。
そして創出したこのアイテムを、次項で自分の内部に「実装」していくわけです。
はい。
ちょっと長くなったので、今回はここまでにしておきます。
本日の要点としては、役に近づくために効果がありそうなキーワードを選び、そこからイメージを創出し、それを自分の内部に実装するということです。
普段から「イメージで遊ぶ」訓練を積んでいれば、自分に影響しそうなイメージの見当が付きますから、それほど試行錯誤を繰り返さずに正解の近くにたどり着くことができるようになります。
それまではとにかく、あれこれ試して探し出すしかありません。でもそれも練習ですし、楽しみながらできるものなので、とにかく回数をこなして自分とイメージが結びつきやすいように心と身体を整えていきましょう。
ではまた次回!